本格推理ものを読んだのは子供の頃だから、ほんとに久しぶりに味わう感覚だ。クイーンではバーナビー・ロス名義の「XYZの悲劇」に興奮したものだ。一番好きだったのは、ヴァン・ダインだったが。
さて、ネタバレは避けなければならない。もっとも本書を読む前に、どんな書評でも読もうとする人は少ないだろうが。当たり障りのないところを書いておこうか。
登場するのは、クイーン父子である。父は老警視。作者の描写では「特に目をひく人物ではない。小柄でしなびた、むしろ見るからに温厚そうな老紳士」だ。息子は推理小説作家。「縁なしの鼻眼鏡」をしている。ラテン語や古今東西の文学を引用しての会話は衒学趣味というほかない(私個人としてはこういうの大好きだが)
アガサ・クリスティーの作品は、大概どんでん返しがあって、それはないよな、という感じもするが、クイーンの手法の特徴は論理的ということだ。本書の推理も、納得させられる。ただし登場人物の多さには頭が混乱する。愚痴を言わせてもらえば、犯人の情報が少なすぎることが、unfairである。
ところで『ローマ帽子 Roman hat の謎』だが、この原題に、ひっかかる。問題となるのは「シルクハット」で、殺人の起こる場所は「ローマ劇場」である。シルクハットのことをローマ 帽子とは言わないだろう。もちろん、クイーンの国名シリーズの1つということは知っていたが(でもローマって国なのだろうか?)。
辞書によれば Roman hat だけでは、「古代ローマの武将の兜」の意味になるようだ。それを勘案したのか、『ローマ劇場毒殺事件』という邦題もある。まあ『ローマ劇場での殺人事件に おける帽子の謎』では長すぎることは分かるが。