本書の副題は「すべてが燃え上がった日」である。
フランスは危険な国だ。革命が起こり、革命一歩手前になることも何度もあった。
私も1度、空港で機動隊が1部の区域を封鎖し、テロに対処している光景を目撃したことがある。重機関銃を手にした隊員の目は緊張していて、一般市民も旅行者も場合によっては容赦しない雰囲気が立ち込めていた。
本書は、パリ郊外の移民地区で、威嚇された警官が発砲して死者が出たことから、日頃の鬱屈を暴発させた移民の若者たちのテロが、わずか3日間で全土に拡がる近未来を衝撃的な文で綴ったものだ。
いかにもフランス風なことには、各章には文学哲学のエピグラフが並び、ある殺人者は死体を前にして、マラルメの詩句を思い出す。
やがてあっという間に大統領(マクロンには似てないが)は殺され、掠奪暴行は蔓延し、公共インフラは破綻する。
「恐慌時には、公徳心というものは電力網よりも早く消え失せる。」
「政府ってなんだ?国じゅうの兵舎や警察署に散らばっている せいぜい30万の公務員じゃないか。そんなものはある一定の状況では抑止力があるかもしれないが、敵が数百万いる時には なんの力にもならないんだ。....銀行預金は消えてなくなるし、書類はなんの意味もないものになるだろう。....もうフランスなんて国はないんだよ。」
そんな悲惨な状況の中でも、赤ん坊は生まれる。しかし暴動のあとの世界はまったく不確かだ。