ずいぶん売れているという。歴史好きな栄光学園の中高生たちを前に、授業形式で書かれた本。レベルは高い。水野慶徳などの名前をあげて、知りませんか?とくる。
また、たとえば、日清戦争後なにが変わったか、と生徒に問い、普選運動が活発になったという答えを得る。ではその理由は?答えは三国干渉で屈した政府に対して、民意が反映されていないという不満からである、という答え。事実の羅列だけの歴史の授業ではなく、つながりを考えさせる、という著者の意図がよく反映されているといえよう。
太平洋戦争に至る過程も、なぜあんなバカな戦争をしたのか、というものではなく、生徒が当事者の立場にたったらどうだったかを、考えさせる。だが、問題はそこからだ。たしかに歴史家としては、一次史料(おもに手紙や日記だが)を熟読して通説を覆すのが常道であり、加藤も、ロシアの歴史家ルコイヤノフにより、ベゾブラーゾフ極東総督が積極的に韓半島を奪おうとしていた、という説を紹介し、日本側は日露戦争に消極的だったとしたり、日中戦争は当時、戦争としては捉えられていなかったとか、松岡洋右も逡巡するときがあった、などと語る。さらに、いくら中高生相手とはいえ、真珠湾戦の魚雷攻撃を、すごいでしょう、と煽る。
これは、一種の歴史修正主義であろう。当事者の立場に感情移入しすぎると、あの戦争も、やむを得なかったもの、という結論にいたりがちになる・・