
1型糖尿病の社会認知度は、まだ低い。本書は、第1人者による適切な啓蒙書だ。
1型糖尿病という表記は、著者も繰り返して言うように、誤解と偏見を助長してきた。糖尿病の9割を占める2型と同じように見られるからだ。
事実は、生活習慣病とは全く関係なく、誰もが突然発症するインスリン欠乏症である。治療には今のところインスリン注射しかなく、患者は自分で日に数回注射して、血糖値を適切にコントロールしなくてはならない。高血糖はもちろんだが、低血糖も危険である。
認知度が医師の間ですら低いので、保険適応も若年者に限られる。生涯にわたって治療を続ける必要があるから、自己負担費用も大きい。
本書は、1型糖尿病患者の手記に大きくスペースを割いて、この病気を紹介している。著者はこれを病気とは言わず「個性」という。
そこで私が思い当たるのは、日本社会は、まわりと同じであることが良しとされる事実だ。一方たとえばフランスでは、同じであることは凡庸である。
なぜか1型糖尿病が多いフィンランド。著者はフィンランド語を学んで、当地の医療現場を紹介する。患者達は、のびのびとみずからの人生を歩んでいるようだ。
治療法が確立していない病は、俗に難病と指定されて一般に保険制度からは助成を外される。iPS細胞からの再生手術も期待される未来に向けて、より良い社会が訪れるのを願わずにはいられない。