
オースティン、サリンジャー、チャンドラー、ブロンテなどの英文の冒頭を、作家片岡と翻訳家鴻巣が訳して、いろいろ談義している。比較することで、細かい部分まで、訳者の考え、個性を知ることが出来る。
1例を挙げよう。カポーティの『冷血』の冒頭にHolcomb村という名前が出る。既訳ではホルコム。しかし片岡はハルコームとした。怖さを出したかったからだという。
また片岡はいう。「原文は画面です。それを僕が外から見ているわけで、僕の仕事は、そのなかに入っていくことではありません。」だが、えてして専門の翻訳家ではない作家たちは入って行く。春樹の訳文もそうだ。だからブラインド・リーディングがあるとしたら、春樹は当てやすいだろう。
鴻巣は言う。「日本で普及している英検などをみると、絶対英語を使えるようにはさせないぞ、という固い決意のもとに作られているのではないか、と疑う。」