『日本のマラーノ文学』(四方田犬彦)

ぐるまん

2008年06月16日 19:39



「マラーノ」とは レコンキスタが席捲するイベリア半島で「豚」と罵られたユダヤ人を指す。彼らはキリスト教に転向を余儀なくされるか、殺されるか、国外追放を強いられた。

この概念を日本に持ち込むとどうなるか。出自を隠さざるを得なかったグループ、在日コリアンや被差別部落民がそれに当たる。かつての満州帝国で日本人であることを隠した李香蘭も含まれる。

在日では松田優作まで登場し、部落民では中上健次が論じられる。ことに興味をひくのが日本人以上に日本趣味に徹した立原正秋の存在である。その屈折した自己表現は忖度の範囲を超える。

ここで思い出されるのが私の畏友、在日コリアンのN君のことである。彼もまた、ゆっくりとではあるがカミングアウトしたが、日本人である私より複雑で高度な日本語を書いていた。おそらく日本人の誰にも負けたくないという意識が努力を生んだのだと思う。

さて問題は四方田である。彼はこういう差別構造に能天気な凡庸な批評家を許せないようで憤慨している。しかし自らは差別された経験をもたない四方田の位置は高踏的であることは否めない。

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