『日本語で書くということ』(水村美苗)



水村美苗の処女作は「続明暗」である。漱石の未完の作から続けて読むと、この作者の凄さがわかる。漱石が書かなかった則天去私風の結末まで、まったく疎漏がない。漱石を凌駕していると言っても言い過ぎではあるまい。なにせ漱石は日本の近代文学の先駆けだ。水村美苗は、そのラスト・ランナーのひとりだ。勿論、漢文の素養は水村にはない。だが小説理論を知っていることでは漱石以上だ。

日本語しか知らない作家には、ロクな作品はない。水村は日本語が周囲にない環境で育ったにもかかわらず、ではなく、それゆえに、日本語で書き始める。日本文学を読み続けていたからである。

本書は、いかに水村が自覚的な小説家であるか、ということの証左である。圧巻は谷崎『春琴抄』論。これを読むと、日本語の豊穣さが稀有なものだということがわかる。


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この記事へのコメント
水村さんと経済学者のご主人とわれわれ夫妻は、40年以上前アメリカ東部の大学街で一緒でした。著作活動は開始していないころでしたが、才気あふれる人でした。ご夫婦で、その大学に来ていた加藤周一さんと親交を結ばれていました。
後に「続明暗、私小説、本格小説)、など楽しませてもらいました。6、7年ほど前、私がアメリカ勤務を終えて帰国した後、「母親の遺産)が新聞で連載が始まり、毎週読んでいるうちに、小説のなかで、経済学者の夫が若い女性と関係を持つという展開になり、私小説)のイメージから、まさかという気はありながら、夫婦仲が悪くなっているなら、夫婦での再会は控えようと連絡しませんでした。
その後、あるご夫婦から、あの二人は相変わらず仲がいいですと聞き、ご主人と会ったところ、家内は、われわれが水村夫妻が仲が悪いと信じたのは、自分の創作力のためだと言っているとのことでした。 夏は東京にいない水村さんの事情もあり、再会をはたしてはいませんが、創作力のせいという点については、いつか軽く反論するつもりです。
TS、
 
Posted by TS at 2016年07月10日 08:11
TSさま

コメントありがとうございました。私も「母の遺産」の不倫のくだりには動揺しました(笑)。美苗さんの悪戯も大したものです。

なお、私は加藤周一のウェブサイトを作りました。ご笑覧頂ければ幸いです。http://kshu.web.fc2.com/
Posted by ぐるまん at 2016年07月12日 10:02
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