井沢は言う、幕末史は分かりにくいと。ホンネは開国なのにタテマエは攘夷というのがいるから。
たとえばイギリス公使館焼打ち事件というのがある。高杉晋作をリーダーに伊藤、井上も参加したテロリズムだ。高杉は、すでにその前に上海を見ていて、攘夷が現実的でないのを分かっているはずだ。では、なぜこのテロを起こしたのか?
井沢は、じつはこの時の高杉は「隠れ開国派」だったのだ、という。攘夷派の不満のガス抜きのためであり、それが証拠に人は殺してない。だが開国を言ったら殺される環境に、当時の長州はあった。司馬遼のいう「発狂集団」である、帝国陸軍にも通ずる。げんに、列強にはとてもかなわないとホントのことを言った中島名左衛門は暗殺されたのだ。高杉もその「空気」を知っているから、おおやけには言えないのだ。
もちろんこれは史料もないから、井沢の想像に過ぎない。しかし、この想像で合点がいくのを、このシリーズの読者は何度も味わっているのだ。