久しぶりに加賀を読んだ。キリシタン時代の武将にして茶人、ポルトガル語・ラテン語に通じた知識人の晩年に焦点を当てる。切支丹弾圧がはじまり、金沢からマニラへと追放される頃を描く。右近という人物の歴史的事実は意外に知られていないようだ。類書も多くない。
遠藤周作が書いていてもおかしくないのに、書かなかったのは何故か。聞くところによると、立派すぎるかららしい。人間の弱さがテーマの遠藤には、まぶしすぎたのかもしれない。
スペイン人宣教師が故国の妹に宛てた書簡という体裁と、ふつうの小説体を並行させる。書簡のほうは『安土往還記』(辻邦生)を思わせないでもない。ほとんどが歴史上の人物だが、語り手の宣教師や、従者に虚構を配する。
加賀の筆力は、追放船が荒海に難渋する場面で、すばらしい描写をみせる。