平野啓一郎の文章は、三島と比較されたことがあるようだ。それも納得。たしかに絢爛豪華なことばが連なる。
この小説の主人公はデザイナーだが、彼のデザインしたランプの描写は次の通り。
「寡黙で、且つ曇りのない輪郭線。少々のことでは面白がりそうもない、世慣れたふうの佇まい。各部の必然は、創意によって橋渡しされ、創意はまた必然に仲介されて結び合い、途切れなく連続している。美観と機能とは、電源を入れる度に新鮮に握手し合い、人間の孤独な集中力を洒脱に励まし続ける。」
物語は、片脚を切断するほどの事故に遭う美人女優を主人公が助け、義脚をデザインするというもの。次第に2人は恋に陥る。ベッドシーンの描写も、華麗なことばの洪水だ。
最後の章には、こんな文章も。
「なぜ人は、ある人のことは愛し、別のある人のことは愛さないのか?ーー愛とは、相手の存在が、自らを愛させてくれることではあるまいか?」
こういう科白が陳腐に響かない表現力がこの作者にはある。