『開拓者たち』(北川惠)

『開拓者たち』(北川惠)

NHKTVで放映されたものの小説版である。満蒙開拓団などの取材で作ったドキュメンタリーをもとに、あえてフィクションにしたのだ。ドキュメンタリーと小説の違いは何か。1つは、ふだんの生活描写であろう。空の色、牛や馬、出産、野の花・・・・この物語では、桔梗という花が、大きな役割をする。

貧しい宮城の農家の「口減らし」として満州に花嫁として送られる女性とその弟妹たちが中心人物である。満州国は、五族協和を謳い文句にしていたが、それは見せかけであった。植民地支配と関東軍の横暴は、中国人たち(匪賊と呼ばれた)の反発を招く。

それでも内地より豊かな生活をおくっていたが、数年後ソ連軍が侵攻、男たちは前線に招集され、関東軍は開拓民を置き去りにして逃げてしまう。敗戦とともに、男たちはシベリアに抑留されたり、中国で留用されたりする。女子供たちは、避難行を余儀なくされる。結果、満州にいた150万人(うち開拓民は30万人)のうち、20万人(開拓民は8万人)が現地で死ぬ。

主人公たちは、夫と離別し、日本に戻るが、ふたたび那須で荒地を開墾する。2度までも文字通りゼロからの出発である。だが、生死の境をさまよう苦難を超えても、たくましく気丈に生きる女性たちや子供たち。「つらいことよりも楽しいことを考える」「絶対に泣かない」。この時代を生きた日本人の強さに打たれる。

作中人物の1人が言う。「きみたちの苦労は日本人みんなが知っておかなければならないことだ」。

日本人の中でも中国人を助けた人たちがいた。中国人の中にも日本人を憎んでいない人たちもいた。だからこそ残留孤児を育ててもくれたのだ。中国人は、日本軍人と民間人を区別する。そして周恩来のおかげで、憲兵でも罪を認めれば、不起訴処分にした事実には、あらためて中国人の懐の深さを感じる。


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