『シリア情勢』(青山弘之)

ぐるまん

2017年05月16日 16:46



始まりは「アラブの春」だった。シリア内戦はそれから7年目に入っている。なぜ戦闘は終わらないのか。アサド独裁が非道なら、なぜ政権転覆は起こらないのか。

本書は、勧善懲悪はもとより、人道主義にすら論点を置かず、冷静に事態を描写している。ホワイトヘルメットさえも、中立性は怪しいと書く。

バッシャール・アサドが「ゴッドファーザー」でアル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネに似て、長男が継ぐはずの父親の政権を、その死によって心ならずも引き受けてしまった、という分かり易い比喩から始めて、混乱の反体制派、地政学的背景など、ひとつひとつ丁寧に縺れる糸をほどいてくれている。まあ、それでも理解に苦しむことだらけだが。

アサドの背後には、ロシア、イラン、レバノンのヒズブッラーが、一方反体制派の背後には、米国、サウジ、欧州がいて、もうひとつ厄介なのはトルコだ。

そこで最終的に見えてくるのは、

「欧米諸国にとって唯一のプラグマティックな選択肢とは、アサド政権と「反体制派」が際限のない武力闘争を続けることでシリアが「弱い国家」として存続することだけ」「「戦争なし、平和なし」という状況を維持する最善の方途は、「独裁」打倒なし、「民主化」実現なし
という微妙な均衡を保つこと」という、まさにマキアヴェッリが言いそうな結論だ。そうなっていれば、1番都合の良いのはイスラエルだろう。

本書(2017・3)のあとの情勢として、とりあえずISの殲滅は近い。だが最近のアサドの化学兵器使用の報道は、反体制派の自作自演の臭いもするし、これに対するトランプのミサイル発射は、ロシアに遠慮した見かけ倒しのものであり、依然としてシリアの緩衝地帯としての意味に変わりはないようだ。

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